自分を好きでいるって、どういう感覚だっけ。
鏡に写る自分の顔を見て、少し見慣れないような、でも同時にどこか懐かしいような、不思議な感覚になった。
大好きだった彼と別れてからもう3ヶ月。初めの数週間は寂しさや後悔に押し潰されそうで、そして「彼が好きだった私」を思い出すのが嫌で、自分の顔も見たくなかった。「彼が好きじゃない私」に価値なんかないような感じがして、髪や肌のケアも超適当にやってたし、部屋も心模様を写すかのように、ぐちゃぐちゃになってた。最近は彼のダメな部分や嫌いな部分を無理やりにでも思い出すことでなんとか自尊心を保っているけど、「自分を愛する」までは当分道のりは遠い気がする。
よく考えてみると、「彼が好きな私」に変身するのと引き換えに、だんだん「本当の自分」がわからなくなってしまったように感じる。アイドル好きの彼の「推し」に近づいたほうが良いような焦燥感を勝手に抱いて、一生懸命髪質にも合わないゆるふわ巻きをデートのたびにコテで頑張って作りあげたり、本当は不便で仕方がなかったネイルも「可愛い」って言ってもらいたくて、絶え間なく続けていた。たとえ自分的には好きじゃなかったとしても、そういう「彼の好み」をトッピングのように追加していくことで、自分への「好き」も加点してもらえると思っていた。
でも、そうやっていくうちに、どんどん自分自身への愛情やケアは減点に向かっていた。毛先を光にかざすと、めちゃくちゃ枝毛ができていた。ヘアアイロンを毎日使っていた割には全然ケアできてなかったな、なんて今更になって反省する。
うわべだけ綺麗に装って、いくらそれで好きになってもらったとしても、少なくとも自分で自分をそもそも愛してあげられていなかった。そんな状態で「好き」をもらっても、それは私ではない他の誰かへの「好き」と同然じゃないか。
今日からは、自分がしたいヘア、着たい服、行きたい場所、なりたい自分を優先してあげたいな。今度は、自分が好きな自分を、好きになってもらいたいから。
竹田ダニエル
1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆するZ世代ライター・研究者。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著書に『世界と私のA to Z』、『#Z世代的価値観』。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞。カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中。