「秋結婚式をするから、よかったら来てほしい」と言われたとき、私はふたつ返事で快諾をした。
彼女とは中学時代からの友達だった。ときには好きな音楽について話をし、深夜遅くまでメールでどうでもいいやりとりをし、家族との関係や学校生活、バイト先での悩みの相談をし合った人。きっとこれから先もずっと私の味方でい続けてくれる人。断る理由なんてあるわけがない。結婚式というイベントこそ嫌いではあったが、そんな些細なことはどうだっていい。彼女の祝いの場に立ち会えることが、とにかくうれしかった。
当日、美容室でヘアメイクの希望を聞かれたとき、私は「とびきりかっこよくしてください」とオーダーをする。
今後の彼女が幸せでありますように。いや、ときどき幸せじゃないこともあると思うけど、大丈夫でありますように。この先何があっても、私はあなたの友人であり、味方でいたい。そのために、私は少しだけ背伸びをする。ちょっとでもかっこいい自分を演出するのだ。
私にとってのヘアメイクは、なりたい自分に少しでも近づくための武装だ。それから、自分に対して暗示をかける。今この瞬間だけは、普段の私ではない。理想に歩み寄った「彼女の晴れ舞台に相応しい、かっこいい私」に変わるのだ。
バシッと決まったヘアスタイルは、この場に立つための自信をくれ、優しく背中を押してくれる。ひとりの大人として、ドレスを着飾る女性として、「ここにいてもいい」のだと、私という存在をまるごと肯定してくれるお守りみたいなものだった。
これからも穏やかな気持ちでいられますように。それから、たまにでいいから私のことを思い出してくれますように。私は、ドレスやアクセサリー、香水、それからヘアメイクにいつも願いを込める。彼女の友人のひとりとして、心からの祝福を送るのだ。
あたそ
普段は会社員。たまにインターネット上であれこれ文章を書いたりトークイベントを開いたりしている。好きな飲みものは酒。著書『女を忘れるといいぞ』(KADOKAWA)、『孤独も板につきまして 気ままで上々、「ソロ」な日々』(大和出版)。