私は、大好きな人のために生きているわけではなくて、この好きという気持ちが、私が世界を生きるための「まばゆさ」にまずはなってほしいと思っている。好きという気持ちが私の吸う空気をキラキラさせてくれるようなそんなことを望んでいる。好きである時点で幸福なのはまちがいないんだ、だからいつまでも好きでいたいし、本当は何も変わってほしくないのかもしれない。なんて願い事はうまく説明できなくて、そして、一番叶いそうになくて、今夜、友達みんなと一緒に流星群を見にいく予定だったのに、流れ星なんて見たくなくて、断ってしまった。
きみを手に入れたいなんて思ったらそれはもう間違いな気がする。
「偶然、相手も自分を好きで、自分もその人を好きでって形以外信じられない」
って言ったら、
「人間関係はもっと手探りなものだよ」
ってきみは言った。二人の間にある一つの関係性を二人でこねて変えていくんだって。私はいつまでも自分が一人きりで、きみのことをいつまでも好きでいますようにって願うしかない気がしている、それはもしかしたらきみのことを本当に好きってことじゃないのかもしれない、というか、好きでしかないのかも。きみと生きていくこととか、きみと見たいものとか、そういうことを想像してなくて、きみを遠くの星だと思っているのかも。なんだかそう思うと、自分の人生の寂しさを受け入れているみたいで虚しかった。
そんなふうに願えるのも、きみが私に優しいからなんだ。
友達の恋が全部うまくいきますようにと願うために流星群は見に行けばよかったなと、集合時間になってから思った。みんなのためなら、そういうことが願える。今頃、みんなは車を持ってる子の家の前に集合して、あったかい缶コーヒーで指先を温めて、白い息を吐きながら、楽しく山まで行くんだろう。
急に私はひとりぼっちの夜がたまらなく好きになっていた。八方塞がりな気がしていたけど、私は私で前を向いている気がする。一人になったら、誰とも自分を比べないでいたら、当たり前にそう思えた。
マンションの下のコンビニまで行って、一番高いアイスを買って、家で暖房を効かせて食べようかな。できれば可愛い服を着て、可愛い髪型にして。
幸せになりたい、だけなら、私は今でも願える。お餅の入ったアイスがいいな。それを食べたら幸せになれる。きみと関係のないところでたくさん幸せになりながら、きみに誰よりも優しい人でいたい、今、突然そう思えた。好かれたいより、優しくしたいんだ。きみが、私にするみたいに。
目の前からきみがいなくなったら嫌だなと思いながら、そんな身勝手な願い事をしたくなくて、ずっと、流れ星を隠してしまう雲みたいになりたかった。ふわふわの柔らかくてなんにも害がないのに、願い事だけはさせてくれないそんな綺麗な雲になりたい。そうして、私は私のために私が嬉しくなる選択をたくさんしていく。星に願うのではなくて、人として、私の力で、きみに優しくして、きみと私の関係を大切にするだけのそんな毎日を始めてもいいじゃないか。コンビニに行く前に、コテで髪を巻こうと思った。ふわふわになっていく髪の中で、私の目は、星を捕まえたみたいにきらきらしている。とっくに流れて消えない星が私の目の中にある、って思えた。きみが好き、っていう名前の星だ。
きみが好きだ。きみに優しい人でいたい。それは、星に願わなくても、私が私を幸福にできていれば、いつまでも叶えられる夢なんだ。
最果タヒ
1986年生まれ。中原中也賞、現代詩花椿賞などを受賞。主な詩集に『死んでしまう系のぼくらに』、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年映画化)、『恋人たちはせーので光る』、エッセイに『「好き」の因数分解』、『恋できみが死なない理由』、小説に『十代に共感する奴はみんな嘘つき』などがある。最新詩集『落雷はすべてキス』が1月末に発売。